かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

瞬発力

 私には会話の瞬発力がないなーと思う。

 そもそも会話が苦手だ。仕事の話ならペラペラしゃべれるが、プライベートな内容になると、途端に慎重になってしまう。

 自分からプライベートな話をすることができないので、どうしても受ける側になることが多い。受ける側は話題をコントロールできないので、瞬発力がいる。なのに、その瞬発力がない。

 当意即妙を目指しすぎてるのかもしれない。自分をよく見せようと思わなければ、瞬発力なんて要らないのかもしれない。でも、普段、自己主張しない分、自分の番が回ってくると、つい張り切ってしまう。若い人が多い職場だから、40代の私が注目されることなんて、あまりない。ここぞとばかりに、盛ってしまって、後悔したりする。

 この間、携帯電話の料金の話題になって、若い女の子が1カ月8万円使うなんて言ったから、驚いてしまって、思わず声が出た。話題に参加していた4、5人が一斉に私に注目する。私が声をあげることなんてあまりないのだ。

「じゃあ、かにみそなまこさんは、月いくらなんですか?」

「2900円ですけど・・・。」

「えー。」

「すごい!」

「安い!!!」

 基本料金が2980円で、本当のところは、平均すると3500円くらいだった。

 ちょっと盛った。

 が、驚かれたのがすごく気持ちがよかった。もっと驚かせたい気持ちになって、さらに調子に乗った。

「ふふふ、家のパソコンと、妻の携帯電話を合わせても10000円いきませんよ。」

 これも盛った。

 本当は12500円くらいだ。私の携帯3500円、妻4000円、パソコン5500円。

 みんなが、すごいすごいと驚く。罪悪感がおそってきて、せめて「10000円くらいですよ。」と言っておけばよかったと後悔した。

 盛ると、気持ちのいい思いができるが、盛れば盛るほど、いつの間にか信頼を失う。誰も、それ盛ってますよね、とはつっこまない。会話なんておもしろければいいから。でも、全部バレてる。人間はそんなにアホではない。

 信頼こそが凄みであると、年を重ねるうちに思った。一目置かれるようなすごいやつになりたければ、正直者であることが重要なのだ。

 なのに、たまに悪い癖が出る。

 しかも、よくよく話を聞いてみると、若い女の子の携帯代は8万円ではなく1万円だった。聞き間違えていた。

 1万円であれほどびっくりしたら、そりゃ注目も集まるなーと思った。自分の携帯代が安いことを自慢したいがためにわざと驚いてみせた、みたいに思われてたかもしれない。

 ちくしょう。