かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

歩き遍路の思い出⑳ コインランドリー

 清水峠を越えてから、本当に旅が楽になった。

 山を下りて町に出たあたりで、ふと思い立って、コインランドリーに寄った。下着を選択して、気分を一新しようと思った。

 コインランドリーに入ると、靴用の洗濯機があることに気づいた。こんなものもあるのか。ずっと実家暮らしだったから、コインランドリーなんて行ったことがない。やってみたい気持ちがむくむく湧いてきた。

 足元の、酷使されて、黄ばんだスニーカーに目をやる。元は真っ白だった、はずだ。 100円を入れ、靴紐を外したスニーカーを洗濯機の中にセットした。

 しばらく椅子に座って、ぼんやりしていた。

 根本的にニートという焦燥が、私の内側には眠っていた。歩くのをやめると、気持ちが落ち着かない。でも、何かを待っているときは別だ。しようがないと思えるから。

 何をするわけでもなくぼんやりと、他の洗濯機の中でゴロゴロ周り続ける誰かの洗濯物を眺めていた。この洗濯物の持ち主とは永遠に会わないのだろうな、などと考えてたら、仕上がった。ワクワクしながら靴を取り出すと、思った以上に白くなっていて、驚いた。

 さらなる欲求が湧いてくる。

 靴がきれいになったのだから、靴下もきれいにしたい。足の匂いは、もう、すさまじかったのだ。よく納豆の匂いなんて言うけれど、納豆の域はとっくに超えていて、濃厚な獣の匂いがしていた。野良犬に、腐った納豆をかければ、あのような匂いができあがるかもしれない。脱いで洗おうかとも思ったが、ところどころ穴が開いていたので、新しいのを買おうと思った。

 コインランドリーを出て、地元の小さなスーパーで、3足セットの靴下を買った。早く履きたい気持ちが抑えられず、店先のベンチで開封した。

 新品の靴下は、肌心地が非常によかった。

 新品の靴下を履き、生まれ変わったスニーカーを履いた。なんだか、いくらでも歩けそうな気分だった。