かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

歩き遍路の思い出⑥ はじめての野宿

 1日目の夕方、そろそろテントを張らなければならないな、と思いつつ歩いていた。お遍路で、はじめての野宿。場所探しに、なかなか手こずった。

 人が通る場所や、ましてや車が通る場所にはテントを張りたくなかった。目立つのが嫌だ。かといって、全く人気のない山奥で野宿するのは怖い。わがままだが、人も怖いし、人でないものも怖い。その後、何度も野宿を繰り返すうち、人気のない公園の隅とか、橋の下とかを、自然と選ぶようになっていった。

 1日目は、町に近い山道の脇の草むらに、テントを張ることにした。

 明るかったら、この場所も選んでいなかったと思う。次の日気づいたが、まあまあ人気があった。そのときは、けっこう暗くなっていたので、あまり居心地の悪さを感じなかったのである。

 小学校のとき参加していたボーイスカウトのキャンプなんかで、テントをたてたことがあった。それで、すごくしんどくて時間がかかるイメージがあった。テントがめちゃくちゃ重かった時代だし、大型の大人数用のテントをたてていたから。しかし、一人用の、最近のテントは、実に簡単に組み立てられた。

 アウトドア用品店でも一応説明を聞いていたが、実際にやってみると、ものの5分くらいでテントができあがった。今の時代では当たり前なのだろうけど、ポールの中にゴムのひもが入っていて、全部つながっているから、一本のポールを組み立てるのがあっという間なのだ。しかもポールが簡単にしなる、曲がる。

 あっという間にできあがったテントに満足しつつ、まっさらな道具で晩御飯を作った。コンロでお湯を沸かし、チキンラーメンを投入。ごはんを炊けるタイプの、円筒型の鍋を買ったので、チキンラーメンを二つに割ってから、入れなければならなかった。旅の間の主食は、ほぼインスタントラーメン。特にマルタイの棒ラーメンが多かった。せっかくごはんを炊けるタイプの鍋を買ったのに、結局お米をたくことはなかった。

 できあがるころには、すっかり暗くなっていて、ヘッドライトをつけながら、チキンラーメンをすすった。

 テントをたてているときや、ごはんを作っているとき、食べているときは、行為に夢中になっているので何とも思わなかったが、食べ終わって、何もすることがなくなったときようやく、一人きりの夜の闇の濃さに気づいた。

 今からここで寝るんか・・・これ、ちょっと怖すぎるんじゃないか・・・。

 ぞっとしながら、片づけて、テントの中に入ったが、中に入ったら、不思議なことに、ものすごく安心感があった。

 あれ、全然怖くないよ!

 頭につけていたヘッドライトを、天井にぶらさげると、テントの中が優しい光に包まれた。内と外を、ペラペラの布一枚で隔てているだけなのに、もう外の闇のことなど、ちっとも気にならない。寝袋にくるまると、温かいということもあって、さらに安心できた。その夜は、一日歩き続けた疲れで、ぐっすり眠れた。が、恐怖は明け方にやってきた。

 明け方、獣の吐息で目が覚めた。

 どうやら、テントの裾あたりを、得たいの知れない大型の獣が、鼻をひくひくさせながらまさぐっているようだった。全身に緊張が走り、身動きがとれなくなった。

 心臓をバクバクさせながら、テントの外の様子に全神経を傾ける。脳内に、動物もののパニックホラー小説のワンシーンがちらちらとよぎった。羆嵐、ウエンカムイの爪、ファントムピークス、シャトゥーン。

 ク、クマか。

 クマなのか。

 そのとき、人の声がした。獣に呼びかける声だった。タロー、もどっておいでー。かけ声に反応して、振り返る獣の気配。散歩中の犬だということが分かって、心底ほっとした。どうかリードをつけて散歩してください。

 あれは本当に怖かった。

 

 

↓ めちゃくちゃ怖い。実話を元にしてるから、さらに怖いのだ。