かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

歩き遍路の思い出② キャンプ道具を揃える

 歩き遍路に出ようと決意した私は、アウトドア用品店に行き、旅の道具をそろえることにした。一人旅なんてしたことがないため、一から道具をそろえなければならない。当時25才、ニートであったが、20万円ほど所持金があった。10万円くらいは使うつもりでいた。

 テント、マット、バックパック、鍋、ガスコンロなどなど。それまで、こんなに一気にお金を使ったことがなかった。一つ一つの道具を選ぶのにすごく悩んでしまい、時間が、かかった。

 12月だった。なぜ、冬に、アウトドア初心者が一人旅をはじめようと考えたのか、死にたいのか、今考えると、本当に意味が分からない。初心者だからこそ、冬の旅が苛酷だということに考えが至らなかったのだろう。

 かなりの時間、その店に滞在していたが、最後に、寝袋を選ぶ際、さらに時間を費やすこととなった。冬なので、冬用の寝袋をポンと買ってしまえばいいはずなのだが、無職ゆえに、けちくさかった私は、冬用だとそれ以外のシーズンが使えないなあなどと余計なことを考えた。少々寒くても、春夏秋のスリーシーズン兼用の寝袋の方が、得だと思った。かといって、寒いのも嫌だ。さんざん迷った。最終的に、スリーシーズン用を買ったのは、たとえ歩き遍路を終えたとして、社会復帰できる自信がないし、その場合野宿で生活することになるかもしれない、という打算があったからだ。四国なんて暖かそうだし、そこまで寒くならないだろう、大丈夫だろうと自分を納得させた。

 が、後々、この決断が失敗だったことに気づく。

 真冬の四国はむちゃくちゃ寒かった。

 私が訪れた年、四国には八十年ぶりの寒波が到来していたらしい。ウソに聞こえるかもしれないが、本当の話だ。

 さらに、私は遍路に対して、大きな勘違いをしていた。遍路なんて、じいちゃんばあちゃんがするようなものだから、田舎の、町中にあるようなお寺を歩いて回っていくのだろうと思っていた。

 実際は、ほとんど登山のようなルートがいくつもあった。

 雪山の中でテントを張ったこともあった。もちろん、テントも雪用ではない。夜の雪山は恐ろしく寒い。寒いなんてもんじゃない。雪用でないテントの中で、冬にも対応していない寝袋にくるまり、私はガチガチと歯を震わせながら、なぜあのとき冬用の暖かい寝袋を買わなかったんだろうと、何度も激しく後悔した。