部屋の片づけ
娘たち用にゲーム機を買う前に、テレビのある部屋を片付けることにした。テレビの部屋には、子どものおもちゃも置いている。このままゲームを買えば、この部屋がゴミ屋敷になることが容易に想像できた。
朝から、妻とともに、せっせと片づけていた。
おもちゃは全部押し入れにしまうことにしたが、全部は入りきらない。使っていないものは、物置にしまった。それにしても量が多かった。特にぬいぐるみが多い。ふと捨ててしまいたいという衝動にかられる。
子供たちの方を見ると、段ボールを使った工作に夢中になっていた。妻の方を見ると、かなり悪そうな顔でニヤリと笑っていた。銃を乱射する前の極道の妻のような微笑みだった。
こっそり、娘たちのぬいぐるみを捨てはじめた。
妻がゴミ袋にぬいぐるみをつっこみながら、つぶやく。「これ、ほんまに嫌いやねん。」なんのことかなと思ったが、どうやら、その捨てようとしてるぬいぐるみのことらしかった。
「ぐでたま」とかいうキャラクターのぬいぐるみで、娘がどこかでもらってきたやつだ。卵の黄身に目があって、しまりのない顔をしてる。ぐでっとした卵で、「ぐでたま」というらしい。
「嫌いって、なんで?」
「見てたらムカムカする。」
「はあ・・・。」
「このだらしない顔が嫌いやねん。」
よく分からない理由だ。長年付き合っているが、私の妻はたまに訳が分からないのである。が、阿諛追従しておく。
「ですよね。ムカムカしますよね。」
ゴミ袋を玄関まで運んだあと、すっきりした部屋を見渡した。気持ちがよかった。隣を見ると、妻も満足そうにしてた。娘たちもきれいになった部屋を喜んでいた。
翌日、ゴミの日だったのはありがたかった。
仕事に行くまえ、妻が「ゴミを出しておくから」と言ってくれたので、普段通り出かけた。玄関に置かれたゴミ袋の中に「ぐでたま」がいるのが、ちらっと見えた。捨てられるとも知らず、相変わらずしまりのない顔してた。さらば、ぐでたま。
なのに、その日の夜、仕事から帰ってきて、玄関扉を開けたら、「ぐでたま」がいた。玄関に一匹、しまりのない顔で立っている。え、ナニコレ、こわい。心霊現象?捨てても捨てても家に帰ってくる人形のようなやつ?
おかえり、と妻が出迎えてくれた。
「これ、なに?どういうこと?」
「娘らに見つかってしもた。」
「そっか。バレたか。」
妻がおもむろに、ぐでたまを蹴り飛ばした。
「くそ、やっぱ、こいつの顔見てたらムカつくわ。」
しまりのない顔のぐでたまが、玄関をころころと転がる。私が高校生だったころ、はじめて妻と出会った。それから、かれこれ、もう20年以上いっしょにいる。しかし、いまだに理解不明な言動がある。
思いながら、はっとした。
私が気づいてないだけで、ひょっとすると、このぐでたまに対する言動は、普段のだらしない私のことを、暗にほのめかしているのではないか。
えいえいと、ぐでたまを踏みつける妻の横顔が、とたんに恐ろしく見えてくる。
ダラシナイ、カオガ、ムカツクネン。
もしかすると、私もいつか捨てられてしまうかもしれない。
↓このぐでたまは優秀。こどもの抜けた乳歯を保管できるのだ。