かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

部屋の片づけ

 娘たち用にゲーム機を買う前に、テレビのある部屋を片付けることにした。テレビの部屋には、子どものおもちゃも置いている。このままゲームを買えば、この部屋がゴミ屋敷になることが容易に想像できた。

 朝から、妻とともに、せっせと片づけていた。

 おもちゃは全部押し入れにしまうことにしたが、全部は入りきらない。使っていないものは、物置にしまった。それにしても量が多かった。特にぬいぐるみが多い。ふと捨ててしまいたいという衝動にかられる。

 子供たちの方を見ると、段ボールを使った工作に夢中になっていた。妻の方を見ると、かなり悪そうな顔でニヤリと笑っていた。銃を乱射する前の極道の妻のような微笑みだった。

 こっそり、娘たちのぬいぐるみを捨てはじめた。

 妻がゴミ袋にぬいぐるみをつっこみながら、つぶやく。「これ、ほんまに嫌いやねん。」なんのことかなと思ったが、どうやら、その捨てようとしてるぬいぐるみのことらしかった。

 「ぐでたま」とかいうキャラクターのぬいぐるみで、娘がどこかでもらってきたやつだ。卵の黄身に目があって、しまりのない顔をしてる。ぐでっとした卵で、「ぐでたま」というらしい。

「嫌いって、なんで?」

「見てたらムカムカする。」

「はあ・・・。」

「このだらしない顔が嫌いやねん。」

 よく分からない理由だ。長年付き合っているが、私の妻はたまに訳が分からないのである。が、阿諛追従しておく。

「ですよね。ムカムカしますよね。」

 ゴミ袋を玄関まで運んだあと、すっきりした部屋を見渡した。気持ちがよかった。隣を見ると、妻も満足そうにしてた。娘たちもきれいになった部屋を喜んでいた。

 翌日、ゴミの日だったのはありがたかった。

 仕事に行くまえ、妻が「ゴミを出しておくから」と言ってくれたので、普段通り出かけた。玄関に置かれたゴミ袋の中に「ぐでたま」がいるのが、ちらっと見えた。捨てられるとも知らず、相変わらずしまりのない顔してた。さらば、ぐでたま

 なのに、その日の夜、仕事から帰ってきて、玄関扉を開けたら、「ぐでたま」がいた。玄関に一匹、しまりのない顔で立っている。え、ナニコレ、こわい。心霊現象?捨てても捨てても家に帰ってくる人形のようなやつ?

 おかえり、と妻が出迎えてくれた。

「これ、なに?どういうこと?」

「娘らに見つかってしもた。」

「そっか。バレたか。」

 妻がおもむろに、ぐでたまを蹴り飛ばした。

「くそ、やっぱ、こいつの顔見てたらムカつくわ。」

 しまりのない顔のぐでたまが、玄関をころころと転がる。私が高校生だったころ、はじめて妻と出会った。それから、かれこれ、もう20年以上いっしょにいる。しかし、いまだに理解不明な言動がある。

 思いながら、はっとした。

 私が気づいてないだけで、ひょっとすると、このぐでたまに対する言動は、普段のだらしない私のことを、暗にほのめかしているのではないか。

 えいえいと、ぐでたまを踏みつける妻の横顔が、とたんに恐ろしく見えてくる。

 ダラシナイ、カオガ、ムカツクネン。

 もしかすると、私もいつか捨てられてしまうかもしれない。

 

 

↓このぐでたまは優秀。こどもの抜けた乳歯を保管できるのだ。