びわの味
日曜日の朝、テレビの前でリングフィットアドベンチャーをやっていたら、電話が鳴った。
次女が我先にと走ってきて、受話器に手を伸ばす。背伸びをしながら受話器を取る様子が、かわいらしい。「もしもし、誰ですか。」だって。
家の電話にかけてくるのは、ほぼ母しかいない。
案の定、母だった。
次女から電話を受けついだ妻が言うには「友人からビワをたくさんもらったから、おすそわけしに行く」とのことだった。
数分後、近所に住む母が家まで届けに来てくれた。妻と娘2人が出迎えに行ってくれた。私はテレビに向かって、ひたすら腰を振っているところだった。
リングフィットアドベンチャーというゲームは、筋トレやヨガ、ダンスのような動きなどをすることで敵にダメージを与えられる。私は敵と戦っていたのだ。「バンザイ腰振り」という技は、両手を頭上にかかげ、腰を左右に振ることで、相手のHPを減らす技である。もちろん、傍から見ると、40すぎたおっさんがサザエさんのオープニングを演じているようにしか見えない。
「何やってんの?」
部屋に入ってきた母に、当然のように突っ込まれた。
台所に立って、母が娘たちにビワをむいてくれた。激しい運動のあとの汗をタオルでぬぐいながら、私も台所をのぞいた。よくよく考えてみれば、ビワなど食べたことがない。先に口にした娘たちは「おいしい」と言っていた。
娘たちの後ろから手を伸ばし、おそるおそるかじってみると・・・
う、うまい。
ビワってこんな味だったのか。見た目から、ライチとか、てっきりそんな感じのすっぱさを想像していたが、味は梨のようだった。食感は柔らかくて桃みたい。
不思議な味だなーと思った。小さな梨のような、桃のような不思議な果物を頬張りながら、まだまだ不思議なことはあるんだなあと感心した。不思議なことがあるって、すごく素敵だ。
母が娘たちにむいてくれたびわを、何度もつまみぐいしながら、このみずみずしさは好きになりそうだなーなんて思っていた。