三輪山に登る②
三輪山の神様は白蛇らしい。
登りながら、長女にその話をしたら、「こうやって、裸足で歩いてたら、会えるかも。」なんて、かわいらしいことを言う。間髪入れず、妻が「白蛇見たら、宝くじ買う。」と言った。次女は「白蛇に乗って、空を飛びたい。」らしかった。
一時間ほどで頂上に着いた。
子供たちが登るのしんどいと言い出して、途中でリタイアする可能性もあると、ある程度覚悟をしていたが、長女も次女も全然平気そうだった。二人とも、私のリングフィットアドベンチャーをたまにやっている。最近、二人の足が太くなってきたように思っていた。思わぬところで、成果が発揮されている。
下りは早かったが、走るように降りたせいで、私は若干ふとももと、足の裏が痛くなった。次女が鹿のようにぴょんぴょん降りていくのを、追いかけていたのだ。
入り口に戻ってくるころには、家族全員汗まみれになっていた。すがすがしい気分だった。みんなで楽しかったねーなどと言い合っていた。
駐車場までの帰り道、妻が手作りの服を売っている店を見つけて、ふらっと中に入った。子どもたちも後を追って入った。私は興味がなかった。
外でしばらく待ってたが、なかなか出てこなかったので、あたりをうろつきはじめた。若宮神社という大神神社の摂社があり、なんとなく鳥居をくぐってみた。万緑の匂いを嗅いだり、縁起を読んだりしながら、時間をつぶした。
そろそろ店から出てくるかなと思って、境内を出ようとしたとき、あっ、となった。境内の石畳をめちゃくちゃでかいヘビが横切っている。長さ2メートルくらいのアオダイショウ。あまりにも立派で、思わず見とれてしまった。ちょうど、鳥居の向こうから、妻たちの気配がした。あわてて呼びに行った。「すごいでっかいヘビがいる!」
石畳を横切ったあと、池の近くの草むらに移動したアオダイショウを、家族みんなで、そっとのぞきこんだ。娘たちはすごく興奮していた。「こんな大きなヘビさん見たことない。」日陰で舌をチョロチョロさせているヘビの目が優しかった。次女は「ヘビさん、かわいいね!」を連呼していた。
今でも、あのアオダイショウの立派な体躯のことを思い出すと、はーとため息が出る。長くて、まるまる太っていて、立派だった。ええもん見たなー、といつでも満ち足りた気持ちになれる。
家に帰ってきてからしばらくして、ふと思った。「そういえば、三輪山の神様は白蛇なのだから、あのアオダイショウも、ひょっとすると、神様の使いだったのでは。」
我ながらとても素敵なアイデアである。
だからといって、宝くじは買わないでおこうと思った。
人間の知能では計り知れない大きな存在がいて、私に姿を見せてくれたのなら、たぶんそれは、今のままでいいんだよ、という合図なのだ。あなたは今、幸運な流れの中にいるんだよ、今やってることは全て間違ってないんだよと。
あのアオダイショウの立派な体躯から感じたエネルギーは、そんなふうに全てを肯定していたもの。
ほんと、ええもん見たなー。