かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

妻の庭仕事

 家に庭がある。端から端まで十歩くらいでいける、縦長の小さな庭だ。前は、芝生を敷いていた。が、数年前に全部枯れた。妻が除草剤を撒いたからだ。何で撒いたの、と理由を聞くと、「除草剤で芝生が枯れるとは思わなかった。」と答えた。

 芝生が枯れたので、雑草が生えてくる。毎年、春になり、草木の萌える時期になると、妻が雑草を引きはじめる。毎週がんばって引いてらっしゃる。

 毎週、毎週めんどくさいだろうと思って、「芝生をもう一度敷こうよ。」と提案したら、「めんどくさい。」と却下された。毎週雑草を引く方が絶対にめんどくさいと思った。

 妻は、小さなスコップやクワを使って、かなり丁寧に雑草を引く。傍から見ると、畑を耕しているようにしか見えない。妻が雑草を引いたあとは、土がふかふかしていて、あらゆる生き物が喜んでいる気配がする。

「なんかもう、すごく畑みたいに、いい土に仕上がってるから、いっそのこと何か植えようよ。」と提案したら、「私は雑草を引くのが好きなだけで、畑を作ることに興味はないの。」と却下された。

 相変わらず訳が分からない。そんな風に立派に耕して、放っておくから、雑草が生えるスピードも速いのだ。ひょっとして、雑草を引くのが好きだから、たくさん雑草を生やそうと、意図して、懸命に土を耕しているのだろうか。いや、それなら、もう本当に意味が分からない。

 休みの日の朝、早くから「今日も雑草引くから。」とジャージに着替えて、麦わら帽子を被って、庭に出ていく。うっすら表情が緩んでいて、ウキウキしているのが分かる。

 歯を磨きながら、窓越しに庭を眺めていると、一心不乱に土をかきむしっている妻がいる。ただ草を引いているようには見えない。完全に耕している。

 太陽が高くなってくるころ、汗びっしょりになって戻ってくる。「今日もきれいになったわ。」と晴れ晴れした表情で笑顔を見せる。

 畑を作ったらいいのに。いい趣味になると思うんだけどなあ、と思って口惜しい。