かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

金魚を飼う②

 気の荒いモサから、イチゴを救うにはどうすればいいか。

 散々考えた私は、思い切って、水槽を買い替えることにした。それまで横幅40センチで、奥行きの狭いスリムな水槽を使っていたが、横幅60センチで奥行きもたっぷりある大型の水槽を買うことにした。下駄箱の上に置けなくなったので、水槽を乗せる台まで買った。水槽が大きくなれば、ストレスも減るんじゃないかと考えた。

 さらに、金魚の数を増やした。数が増えたら、イチゴへの攻撃もましになるかもしれない。今度は、丹頂という種類の、白くて頭の上だけが赤い金魚を2匹買った。そのとき「チーズはどこへ消えた」という本を読んでいたので、1匹はチーズという名前にした。もう1匹はいい名前が思いつかず、他の金魚に比べ、ただ顔が丸かったのでマルと名付けた。

 玄関がさらに華やかになった。

 でかい水槽の中に、4匹の金魚がひらひらと泳いでいる。モサ、イチゴ、チーズ、マル。どうか、争いのない平和な世界が訪れますように。

 が、依然としてモサは、猛者であり続けた。3対1ならおとなしくなるだろうと思っていたが、甘かった。相変わらずモサは、エサを独り占めしようとした。

 エサをあげると、他の3匹を威嚇するように、追いかけるそぶりをみせては、誰もいなくなったところで、エサを食べ始める。イチゴは完全にびびっている。新参者のチーズもびびっていた。

 一方、同じ新参者のマルは、飄々としていた。マルもモサに追いかけられていたが、マルは逃げ足が速かった。モサが追いかけてくると、ひょいと身をかわして逃げる。その後でしっかりエサを食べた。マルから攻撃をしかけることはなかったが、逃げる自信があるのだろう、モサが近づいてきても平然としていた。モサの方もどうしてもいじめられないことを悟ったらしく、マルを威嚇することはなくなっていった。

 それから1年くらい経って、イチゴが死んだ。

 尾腐れ病が直接的な原因だったが、そもそもモサがいじめたから弱っていったのだと思う。薬を入れた別の水槽に隔離して、治療を試みたが、治ったり、悪くなったりを繰り返し、結局死んでしまった。

 金魚の死に、そこまでの悲しみは感じない。が、そこには、むなしさと、はかなさがある。朝、硬直した体が、さかさまになって、水面にぷかっと浮かんでいる。はっきり死んでいると分かる。華やかな水槽にむなしさとはかなさが漂っている。

 当時4歳だった長女が、庭に穴を掘ってくれて、そこにイチゴを埋めた。

 死を子供に説明するのは難しい。金魚の体は土になって、そこから草が生えて、風になったり、虫になったりするんだよと、懸命に説明を試みたら、ポエムのようになってしまった。が、我ながら悪くない説明だなとも思った。むさしさとはかなさが再び、華やかさに変わっていきそうな、明るい予感がする説明だ。

 長女が枝を拾ってきて、イチゴを埋めた場所に刺した。墓標のつもりらしかった。即席で作ったお墓の前にしゃがみ込み、手を合わせた。長女は熱心に拝んでいた。小さな手がかわいかった。

 生きてるって幸せだなーと思った。