かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

人と関わること

 大学を卒業してから、長い間ふらふらしていた。アルバイトをしたり、無職だったりを繰り返していた。引きこもりとまではいかなかったが、一日中家にいて、誰ともしゃべらない日が何日も続くこともあった。

 そこそこ有名な大学だった。就活を頑張れば、一流企業に就職できるくらいの大学だった。でも、私はそもそも就活をしなかった。働いたら負け、とまでは考えていなかったが、それに近い考え方を持っていた。働くのが馬鹿らしかった。

 のちに就職氷河期とよばれる時代だったから、社畜かつ即戦力が求められていたし、そもそも、私は人付き合いが下手くそだった。アルバイトでさえ苦労しているのに、就活して正社員なんかになったら、私は死んでしまうにちがいない。なんとか働かず、楽をして生きていけないもんか、と考えているうちに無職になった。

 今思うのは、あの頃働かなくてよかった、ということだ。

 人は一人では生きていけない、という決まり文句を、かつての私は鼻で笑い飛ばしていた。が、本当に一人では生きていけなかった。無職になり、自分一人で生きる道を探していたが、結局何も見えてこなかったし、生まれなかった。私は思い違いをしていたのだ。一人では生きていけない、というのは、別に一人では生存できないという意味ではなかった。一人では何もやる気が起きない。ただそれだけだった。何度も一人で立ち上がろうとしたが、何度も無理だった。

 人々の夢は、たぶんそのほとんどが、社会の中でしか叶わない夢だと思う。例えばお金持ちになりたいという夢も、お金そのものが欲しいのではなく、お金を通して得られる物やサービスに対する欲求だったりする。そしてもちろん物やサービスは自分以外の他人が生み出している。私たちの夢には、その夢を支える人間が必ずいる。社会の中でしか叶わない夢を、一人で叶えることはできない。

 もちろん忙しすぎて、あー仕事辞めたいなーと思うことは今でもある。が、明日やめたところで、私はまた何もできないイモムシに戻るだけなのだ。自分をよく見せようとしすぎて、人付き合いをやめたくなることもある。が、完全な孤独を得たところに幸せがないことを、私は十分に体験し尽くした。

 別に人と関わることが好きになったわけではない。今も変わらず苦手だ。大勢でいるより、一人の方が好きだ。苦手だからこそ、忘れそうになるが、忘れてはいけないと心にメモしている。どうなっても、人と関わることをやめたらだめだということ。職場の嫌なやつや、仕事のプレッシャーなど、人の世のストレスが、私というイモムシを羽化させて、自由に羽ばたかせているということ。

 休むことと、人との関わりをやめることは違う。休みたくなったら休むし、仕事をやめなきゃ休めないなら、堂々と仕事を辞める。金儲けに疲れたら、働かない。

 でも、人との関わりを断つことには、うんざりしてる。本当にあの頃、無職でよかった。負け惜しみのように聞こえなくもないが、心から思う。人との関わりを断った先の自由が幻想だと言い切れるし、本当の自由が人間社会の中にあるということを、今よく理解できているから。