かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

金魚を飼う③

 その後、さらにチーズも死んでしまった。丹頂のマルと、キャリコ琉金のモサの二匹だけになった。相変わらずモサは血気盛んだったが、マルは逃げ足が速かったから、二匹はそれなりにうまくやっていた。

 あるとき水槽を見ると、モサが水面に腹を出して、ぷかぷか浮いていた。

 死んでいる?

 とくに病気でもなかったのに・・・

 水槽をコンコンとノックしてみると、はっと気づいたように体をひるがえし、普通に泳ぎはじめた。口をパクパク動かして、エサをねだっている。

 なんだこりゃ。

 いったい今のは何だったのか。金魚の世界の、見てはいけない裏側を見てしまったのだろうか。普段人間が見ていないとき、泳ぐのに疲れた金魚たちは、ラッコのように水面に浮かんでいる、とか。

 それ以降も、同じようなことが、何度もあった。パっと水槽を見ると、モサが死んだように水面に浮かんでいる。でも、水槽に近づくと、あわてて元に戻りって、普通に泳ぎはじめる。

 さぼっているようにしか見えなかった。

 いろいろ調べてみると、転覆病という病気らしい。エサの食べ過ぎが原因で起きるのだとか。お腹が膨らみすぎたため、逆さに浮かんでしまうという病気。なんとまあ、情けない病気であることよ。

 どのみち、イチゴやチーズを死に追いやるほどの食欲が災いしたのだ。ざまあみろと思ったが、このまま役目を放棄してもらっても困る。誰も死体のような金魚の姿を観賞などしたくない。観賞魚としてお前は生まれてきたのだ。

 今は亡きいちごやチーズたちと同様に、別の水槽を用意して、治療を開始した。金魚の病気には食塩浴が効くらしい。水槽に塩を溶かした水を入れ、絶食の刑に処した。一週間ほどエサをあげずにいたら、水面にぷかぷか浮かぶことがなくなった。金魚らしく、きちんと背びれを立て、水槽の底でじっとしてる。

 そろそろ大丈夫だろうと思い、マルのいる水槽に戻した。再び、鑑賞魚としてしっかり働くのだ。

 が、絶食のせいだろう。戻ってきたモサは、以前に増して、エサにがっついた。食べ過ぎが原因で、病気になったというのに。水槽の上からエサをまくと、バシャバシャと水しぶきをあげ、ものすごい勢いで口をパクパクさせる。口を開けすぎて、のどの奥まではっきりと見えた。なんて憐れな生き物なのか。

 案の定、二日ほどで、またひっくり返ってしまった。もう一度、治療しようかとも思ったが、また同じことを繰り返すんだろうなと思うと、めんどくさくなった。

 普段は逆さになって浮かんでいるが、人が来たら体を起こして泳ぐ。逆さではエサを食べれないからだろう。

 モサという金魚は、そういう金魚なのだと思うようにした。貪欲という業を背負って生まれてきた、どうしようもない金魚なのだ。

 

↓チーズとマルはこれ。