かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

キノコと豆腐

 旬の食べ物ってのは、もちろんおいしいけど、旬でも何でもないのに、やたらおいしいときがある。キノコと言えば秋のはずなのに、2月から3月くらいにかけて、やたらキノコがおいしかった。特にエリンギ。おいしくておいしくて、しょっちゅう買って食べてた。

 おいしく感じてるときは、上手に料理できそうな気がする。どうやっても、その食材がおいしいので、伸び伸びと料理できるからかもしれない。エリンギでよくやっていたのは、炒めて、ショウガ醤油をかけるという極めてシンプルな料理。これがめちゃくちゃおいしい。食感を楽しみたいので、断面が円になるように横に切ったエリンギを、油でしっかり炒める。たったそれだけの料理とも言えない料理だが、ポイントはお皿に盛りつけたあとに、ショウガ醤油をかけるところにある。フライパンの上でからめると、味がしっかりつきすぎて、エリンギ自体の味が分からなくなってしまうのだ。

 最近は、豆腐がやたらおいしく感じる。特に木綿豆腐。そのまま食べるのがいい。パックのふたをはがし、水を切って、そこに直接醤油を注ぐ。口の中で豆腐と醤油をうまい具合にからめながら、むぐむぐしてると、本当にうまー、となるのだ。豆腐はあわてて食べてはいけない。豆の味を探しながら、食べるのがポイントだ。

 口の中で豆の味を感じながら、豆腐ができるまでのことを想像してみるのもいい。大豆をたくさんゆでて、布でしぼって、出た汁をにがりで固めたら、絹こし豆腐の完成だとか。木綿はさらに、そうやってできた絹豆腐をくずして、いっぱい集めて、固めたやつだとか。ああ、なんて贅沢な食べ物なんだろうか。

 江戸時代、豆腐は大人気だったようで、「豆腐百珍」なる豆腐のレシピ本がベストセラーとなったとか。江戸っ子になりきって食べてみるのもいい。200年以上前の人たちが、おいしいと言って食べていたものと、同じものを食べているのだと思えば、豆の味わいにも深みが増してこよう。