かにみそなまこをつまむ。

40代男子の日常、昔の思い出などについて、現在休載中

散髪屋のおやじ

  休みの日に、髪の毛を切りに行った。

 ここ何年か、行きつけの店がなかったのだが、最近ようやくいい店を見つけたので、迷うことがなくなった。理容と美容が合体したおっさん専門の店。頼めばヒゲも剃ってくれる。

 通いはじめたときから切ってもらっていた人が、最近辞めた。店に入って、今日は誰が切ってくれるんだろうか、と待っていた。カットしてくれそうな若い兄ちゃんは、他の人の髪を切っている。

 椅子に案内された。50歳くらいのおやじが出てきて、私の髪をいじりはじめた。そのまま寝かされ、シャンプーがはじまる。

 このおやじは、こういう役割なのだ。いつ見ても、カット以外のシャンプーやドライヤー、髭そりをやってる。そういう人。

 でも、シャンプーしたあと、どんな髪型にしますか、と聞かれた。一瞬「はてな」と思ったが、今聞いておいて後で、カットする若い人に伝えるんだ、と悟った。まあ、でも、その人が来てからくわしく説明しようと、おやじには適当に答えておいた。

 ら、おやじがハサミを持って、切り始めた。

 え、あなたが切るんですか?

 思ったが、口には出せない。

 なされるがままに切られていたが、ものすごく遅かった。ちょっと切るだけだったのに、2時間ほどかかった。丁寧というより、おそるおそる切っていくという感じだった。眠くなって、途中で何度も意識がとんだ。

 でも、意外とうまかった。出来上がりだけを言うと、大満足だった。確かな技術を持っているんだなーと思った。技術はあるが、慎重。こういった態度が職人の最終形態なのかもしれないなーなどと感心してしまう。「ふむ、ふむ」と差し出された鏡を見ながら満足してた。

 ら、いきなり、人差し指で胸のあたりをつんつん突かれた。

「いやー鍛えてますねー。」

 触るか・・・普通。

 髪の毛切るときは慎重すぎるくらい慎重だったのに、こういう距離感こそ慎重に行けよ、と思わず突っ込みたくなった。技術は確かでも、やはり、おやじはおやじなのだ。

 感心してたはずが、一瞬にして寒心に堪えられなくなった、とかいう話でした。